受刑者は性同一性障害、「配慮を」 日弁連が勧告
受刑者は性同一性障害、「配慮を」 日弁連が勧告
日本弁護士連合会(宮崎誠会長)は21日、性同一性障害の男性受刑者からの申し立てに基づき、黒羽刑務所(栃木県大田原市)に対し、医師によるカウンセリングや女性用の衣服の着用、長髪を認めるよう人権救済を勧告した、と発表した。法務省にも、女性刑務官による処遇などの検討を求めた。
勧告書などによると、この受刑者は07年1月から同刑務所に男性として収容されていた。肉体的には男性だが、幼少時から女性の自覚を持っていた。戸籍の名前は女性風に変えたが、性別は変更していなかった。
当初は衣服や下着は女性用を着用し、長髪も認められていたが、同年11月に男性職員を殴って骨折のケガを負わせたことから、衣服は男性用に変更され、配慮はなくなった。
受刑者は、この暴行事件で有罪判決を受けた後、静岡刑務所に収容中。女子刑務所への移送も訴えていたが、日弁連は「肉体的には男性であり、他の受刑者のことも考えると難しい。人権侵害とまでは言えない」として勧告には盛り込まなかった。
一方、刑務所側は「身体上、戸籍上は男性であり、社会復帰した際、男性として扱われても感情を爆発させることなく自己実現を図る能力を付けることが矯正の目標」としている。
法務省矯正局は「必要で可能な配慮はしているが、勧告内容をよく見て今後のあり方を考えたい」としている。
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/hr_case/2009.html
日弁連
人権救済申立事件「警告・勧告・要望」
• 2009年9月17日
刑事施設における性同一性障がい者の取扱いに関する人権救済申立事件(勧告)(PDF形式・242KB)
【2009年9月17日 黒羽刑務所長、法務大臣宛勧告】
黒羽刑務所の受刑者であった申立人(収容以前に性同一性障がいとの診断を受け、氏名も女性名に変更していたが、性別適合手術前の者)は、入浴、身体検査、運動時の際に男性刑務官のみに処遇され、また、着衣・頭髪に関する処遇は、当初、女性下着等の貸与、男性としての調髪の強制まではしないという内容であったが、収容中に申立人が起こした刑務官への傷害を契機として、衣類も男性用に変更され、調髪も男性の基準にそって強制されるようになった。
このような状態は、申立人の性自認である女性という性別に照らし、耐え難い苦痛を伴う処遇であることから、当連合会は、その処遇が個人の尊厳に反する人権侵害にあたるとし、黒羽刑務所長に対し、女性としての下着、官服の貸与、入浴等の際に女性刑務官が直接の処遇にあたるなど、性自認に沿った処遇を行うことを勧告し、法務省に対しても、性同一性障がいに関する教育を各施設に行うこと、性同一性障がいの受刑者に対する処遇の指針を検討するよう勧告した事例。
刑事施設における性同一性障がい者の取扱いに関する人権救済申立事件(勧告)(PDF形式・242KB)
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/hr_case/data/090917.pdf
>このうち,11月5日からの処遇変更についての黒羽刑務所の回答は以下のとおりであった。
「当所では,平成19年11月5日,申立人が男子刑務官による衣体捜検に激
興し,当該職員に暴行するという犯罪をじゃっ起したことを契機として,申立
人に対する処遇を再検討し,これを変更している。なお,上記暴行事犯につい
ては,同年12月7日,閉居40日の懲罰を科すとともに,同年12月6日,
当所から宇都宮地方検察庁大田原支部に事件送致しているが,現在公判係属中
であるため,その具体的内容についての説明は差し控えたい。
当所に入所した当初,申立人が女性として扱われることに固執して職員の指
導を受け入れようとせず,社会復帰に向けての処遇を行うことが不可能であっ
たことから,当所は,申立人に対する矯正処遇のきっかけとなることを期待し,
女性用下着を貸与する等の試みを行った。なお,女性用下着を着用している申
立人を他の男子受刑者とともに処遇すれば,申立人が性暴力の対象となる等の
事故に繋がりかねないため,申立人は単独室に収容された。
しかし,その後の申立人は,女子刑務所への移送を求める等,女性としての
扱いを求める要求をエスカレートさせるばかりであり,その結果,申立人に係
る単独室収容が長期化し,そうでなくとも社会性の乏しい申立人に対する集団
処遇が実施できない状況が続いた。また,女性用下着を洗濯工場(男子受刑者
が洗濯を実施している)で洗濯。すると無用のトラブルに発展しかねないこと
から,当所は申立人に対し,洗濯機を使用して自分の下着を洗うよう指導して
いたが,申立人の衛生観念の低さから,当該下着は,極めて不潔な状態となっ
ていた。
そもそも申立人は,自分を女性として扱わない者に対する衝動的暴行等の犯
罪(女子ソフトボールチームへの加入が認められなかったことに激興しての器
物損壊,着替えの立会いが男子警察官だったことに激興しての公務執行妨害,
女装や女子トイレの使用が認められないため就業できないと説明したにもかか
わらず生活保護が認められないことに激興しての市役所職員に対する暴行等)
を累行したあげく服役するに至っており,刑執行開始時に行われた処遇調査で
も,申立人の問題として,「自分の不満や失敗をすべて性同一性障害への周囲
の無理解のせいにしようとしがちであり,それ以外の自分の問題点等に目が向
けられない」ことが挙げられている。申立人の内心はともかく,現在のところ,
申立人の身体上・戸籍上の性が男性であることは事実であるから,申立人が社
会復帰した際,周囲から男性として扱われることを避け続けることは不可能で
あり,したがって,申立人に対する矯正処遇の目標は,たとえ男性として扱わ
れたとしても感情を爆発させることなく,社会規範を遵守しながら自己実現を
図る能力を付与することにある。
以上の点に,今般,またしても申立人が,男子刑務官による衣体捜検に激興
し,当該職員に暴行を加えるという犯罪をじゃっ起したことを踏まえ,平成1
9年11月5日,当所は,申立人に対する処遇を再検討し,原則的に他の男子
受刑者と同様の処遇を実施することとして,即日実施した。」
朝日新聞 2009年10月22日
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